「ダサさ」と「親しみやすさ」は表裏一体
「ちょいダサ」も悪くないよね
以前読んだマーケティングのコラムの中で、「日本ではプロが良しとしないものの方が売れる」という言葉が印象に残りました。コラムの著者曰く、「プロが素人の視点を無視しがちになるから」だそう。
どういう事なのかデザイン制作に当てはめてみると、デザインのプロは自分たちがデザインのことを分かっている一方、素人がデザインをどれだけ知らないか理解していないので、うっかり素人目線においてハードルが高いものを制作してしまいます。
「商品やサービスの理解度が低い人」に対応したデザインが作られないので、販売数が上がらなかったり敷居が高いなと思われてしまうのです。
「良さが分かる人だけ買ってくれればいい」という見方もありますが、世の中一番数が多い購買層は素人さん。
なので“素人の目線まで降りて作ったモノ(イコール、プロが良しとしないもの)”の方が売れるということなのです。ブランド等は単価が高いので「プロ視点」で作っても良いのですが、単価が低いものについては「大衆的」にして親しみを感じてもらって沢山買ってもらったほうが良いよね!という内容でした。
これは普段デザイン制作をしている時にも似たものを感じることがあります。
企業内で使用するデザインを作る場合、GOサインを出す方々は自分より上の世代になることがほとんどで、その方たちの慣れ親しんできたデザインや見た目というのは自分(作る側)の世代よりも少し古いもの。
なのでその希望を汲んで「上の世代目線」で作るとはっきり言ってちょっと「ダサい」ものが出来上がるのだけど、その方が年齢層の高い社内でウケが良かったなんて事もあったなぁと思い出しました。流行を追わず、気取らないのも一つの手法です。
デザイン制作に限らず何かのモノづくりをしていると、「新しいものは追っておけ」「内容は新しければ新しいほど良い」といった概念が刷り込まれていきます。
一方、それらを追ってばかりいると「ダサい」事や物ってカッコ悪くて嫌だな…となってしまい、制作するものが作り手目線になっていきます。しかし、作ったものに親しみを持ってもらうためにはその考えを一旦脇に置いておいた方が良さそうです。
「ダサさ」と「親しみやすさ」は表裏一体。
「ダサいことも実は大事なこと」なんです。
「相手目線」まで降りるのは大変という事
私が個人的にいただいているお仕事の依頼者の大半は、グラフィックデザインについて何も知らない方が殆どです。「やりたいことがあるけどデザインをデータに起せる人が周りに誰もいない」「どうしていいかわからない」ということで頼ってもらうこともあります。
二つ折り名刺制作の依頼で、依頼者が「これにしてください!」と好みのテイスト見本を持ち込ん来たことがあります。見てみると裏と表でイメージがまったく違い、“ただ自分の好きなものを組み合わせよう”としていたので「ちょっと待って~!」と思い留まってもらいました。
こちらも好きなものを作ってあげたいのは山々なのですが、デザインのミスマッチを無視するわけにもいかないので最低限のことは口を挟みます。
しかし、口を挟み過ぎると完成したものにその人自身の色がなくなってしまいます。依頼者にも出来たデザインに対してワクワクしてもらうことも大切なので、依頼者の目線まで下がり、どこを尊重してどこを直すかという選択が必要になってきます。
「相手の目線まで下がる」というのはさじ加減が難しく、「汲み取る作業」だなとつくづく感じています。
自分が力を入れていることで誰かに頼られるとやりがいを感じますよね。
仕事のためや自分のためのスキルにしておくのではなく、直接困っている人の役に立てるというのは私にとっては何にも代えがたいことです。
これを続けていくためには制作技術もさることながら、目線を下げるスキル、置いてきぼりにしないように説明するスキルが必要だなと身に染みているところ。
時々うっかり依頼者を置いてきぼりにしてしまうことがあるので気を付けていきたい。